シルバーデモクラシー論を考える-世代間対立を越えて

はじめに

 シルバーデモクラシーとは、「人口比率と投票率の偏りによって、高齢者の政治的影響力が現役世代のそれを上回っている。その結果として社会保障の配分が高齢者に偏ることとなり、世代間格差に繋がっている」という流行りの仮説である。シルバーデモクラシーを構造的問題であるとみなす立場からは、シルバーデモクラシーを解決するための選挙制度改革がいくつか提案されている。また、政治に興味のある同世代の人と話をすると、このシルバーデモクラシー論に関心を持っている人が非常に多い(なお自分は20代の人間である)。
 シルバーデモクラシー論は政治学者の菅原琢がいうように「最近の論壇において流行語となり、仮説ではなく半ば事実として受容されてきた」 *1が、一方でその定義は曖昧で、言葉だけが独り歩きしてきた傾向にあるのは否めない。シルバーデモクラシーやそれによってもたらされる世代間格差の当事者はまさに私たちの世代であり、興味関心を持つのは当然のことであろう。だが、実態の正確な把握なしには解決もできない。本稿では、シルバーデモクラシー仮説に懐疑的な立場から、シルバーデモクラシーや世代間格差について再検討していきたい。

 

シルバーデモクラシー」の罠

 先述したとおり、シルバーデモクラシーは自明のものとして扱われてきた経緯があり、「社会保障の分配が高齢者に偏りすぎている」「高齢者が過剰に優遇されている」といった批判がよくなされる。だが、具体的にどの政権のどの政策がシルバーデモクラシーの実例なのか議論されることは少ない。
 例えば、八代尚宏は安倍政権下で行われた低所得高齢者に対する臨時給付金を実例として取り上げているが、安倍政権はむしろ若年層からの支持が比較的厚い*2(図1*3)。

図1 年代別の歴代内閣支持率

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 また、若年層が安倍政権や自民党をより支持する傾向がある一方で、民進党の支持層は高齢化する傾向にある(図2*4)。だが、民進党の看板政策は「人への投資」、すなわち教育投資であり、「チルドレンファースト」という強い言葉を使ってすらいる*5。これらはなかなか興味深い傾向であるが、支持年齢層と政策のアウトプットは違うということだろうか。いずれにせよシルバーデモクラシー仮説で上手く説明できない事象である。

図2 高齢化する民進党支持層

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 また、安倍政権と最も関わりの大きい利益団体といえば経団連を思い浮かべるが、もちろん経団連高齢者の利益を代表しているわけではない。あるいはこのところ、国会では若年層に関する政策論争が絶えない。例えば待機児童の存在は大きくクローズアップされ、高等教育の無償化は最優先の憲法マターとして政府与党が検討している。果たしてシルバーデモクラシーなるものは実在するのか。実在するのだとすれば具体的には何を指すのだろうか。
 ところで、大阪都構想や英国のEU離脱シルバーデモクラシーであるとする向きもある。確かに、これらの例ではいずれも若年層の投票傾向とは逆の結果に終わっている。だがここで重要なのは、どちらも賛否が拮抗する中で若年層の投票率が低かったことである。つまるところ、実際には若年層が投票に行くことで結果を左右することができたにも関わらず、若年層の多くは投票に行かなかったのである。そのような層はいわば無関心層であり、若年層を「大阪都構想に賛成していた」「EU離脱に反対していた」とひとくくりにしてしまうのは間違っている。
 そもそもとして、現在すでに人口比率上若年層が不利な状況に陥っているわけではない。実のところ、65歳以上の高齢者が有権者人口に占める割合は30%程度であり、18歳から30代までの若年層が有権者人口に占める割合とほぼ同じである*6。シルバーデモクラシーなるものが仮にあったとして、問題なのは若年層の政治的無関心であり、決して人口構造ではない。上記の2例についていえば、どちらも世代間対立的なマターではないし、直接民主主義的取り組みである以上、選挙制度的議論もなじまない。結局のところ、これらをシルバーデモクラシーの実例として扱うのは適切ではないだろう。

 

「世代間格差」の罠

 シルバーデモクラシーと同時に語られることが多いのが、世代間格差の議論である。世代間格差問題とは、社会保障における負担と受益のバランスが世代によって大きく異なることを指している(図3*7)。シルバーデモクラシーが世代間格差を生んでいるという説は広く受け入れられているように思える。

図3 年金・医療・介護全体における生涯純受給率

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 だが、世代会計と呼ばれるこれらの手法に対してはいろいろな批判がある。例えば、厚生労働省によれば、世代間格差の最大要因は少子高齢化ではなく社会保障の社会化にある*8。社会保障の社会化とはつまり、私的扶養から社会的扶養への移行を指す。年金を例に考えてみるとわかりやすい(図4, 図5*9)。

図4 高齢者の収入源推移 その1

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図5 高齢者の収入源推移 その2

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 図4を見ると分かる通り、1968年から1974年にかけて子の扶養に経済的に依存する高齢者は大きく減った。逆に言えばこの時代は公的年金が不完全であり、子の扶養に依存する高齢者が多く、現役世代は高齢者を私的に扶養していたのである。逆に、2015年の調査では子供からの援助を主な収入源とする高齢者は1%に満たない*10。過去にあった私的な扶養は、図3のような世代会計には反映されない。そのため、現在高齢者となった彼らの「負担」は低めに見積もられているのである。我々現役世代と現在の高齢者とでは、社会保障の負担の在り方が大きく違う。その点を無視して、公的な負担のみを比較するのはアンフェアであろう。
 このような社会保障の「社会化」は、保育園や介護といったサービスにもあてはまる*11。専業主婦世帯が多くを占めていた時代、保育や介護といったサービスは主婦が供給してきた。しかしながら、共働き世帯が増える中でそれらのサービスは社会化されていった。保育や介護を公的に供給するにはお金がかかる。その意味で、公的な税負担を見れば我々現役世代の負担は現在の高齢者が現役世代であったころに比べ大きくなるだろう。とはいえ、彼らはそのような負担を私的に行ってきた世代である。やはり公的な負担のみで世代を比較するのはアンフェアであろう。
 さて、もともとシルバーデモクラシー論は高齢者への分配の偏りを問題視してきた。とはいえ、高齢化率が高まる以上高齢者への支出が増えていくのは当然である。つまるところシルバーデモクラシー論とは、「高齢者の政治的影響力によって、高齢者への分配が、高齢化率から見ても過剰なほどになされる」という議論のはずである。だが実際には、そのような傾向があることは確認できない(図6)。

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 この図を見て分かるとおり、高齢者に対する社会給付を国際比較で見れば、日本は高齢化率に比べ支出を抑えられている方だといえるだろう。果たして、日本において高齢者は過剰に優遇されているといえるのだろうか。対GDP比で見たときに教育関連の支出が少ないのは事実であるが、それだけをもって政治がシルバーデモクラシーに支配されてしまっているとするのは早計ではないだろうか。

 

選挙制度で「解決」すべきものなのか

 先述したとおり、シルバーデモクラシーを批判する立場からは選挙制度の改革案が提示されている。例えば、八代尚宏や小黒一正は、シルバーデモクラシーは構造的な問題であるとして、世代別選挙区、ドメイン投票方式、余命比例投票の3つの選挙制度改革を検討している*12。他にも、義務投票制が改革案としては考えられるだろう。だが、憲法によって投票価値の平等原則が保障されていることを考えれば、このうち現実的なのは世代別選挙区と義務投票制に限られる。他の選挙制度については理論の大きな転換が必要であり、そのまま実現しても違憲判決が出る可能性は高い。
 それでは、世代別選挙区や義務投票制は世代別の政治的影響力を変化させうるだろうか。確かに先述したとおり、有権者に占める若年層の割合は高齢者のそれと大きく変わらない。ならば、若年層が人口比に応じた影響力を行使すれば、それで十分シルバーデモクラシーは解決できることになる。しかしながら、やはり課題もある。なぜならば、現時点では人口比が拮抗しているとはいえ、将来的にはそのバランスが大きく崩れることになるからだ。特に世代別選挙区は必然的に世代間対立を煽る。そのような社会環境になれば、若年層は人口比で見て勝ち目がないことになる。
 そもそもの話をしてしまえば、特定の方向に政策を誘導するために選挙制度改革(それも投票価値!)を議論すること自体が禁忌であろう。特にドメイン投票方式や余命比例投票は投票価値の平等原則を脅かすものであり、このような選挙制度が検討されていること自体に疑問がある。実際のところ、現在の有権者が将来世代のことを考えた投票行動をできるかどうかというのは、民主主義の根本的問題である。増税を拒み、国債を積み上げる現在の政治には、そのような構造的問題を見出すことができるかもしれない。しかしながら、だからといって民主主義そのものを放棄したり選挙制度を変えたりすることが解決策になるわけではない。この点を踏まえた議論をしていくべきだろう。

 

「世代間対立」を越えて

  シルバーデモクラシー論や世代間格差論は、必然的に世代間対立を煽る。そういった議論の前提にあるのは、「有権者は自身の利益を最大化しようとする」という合理的経済モデルであり、それを高齢者に当てはめて考えている。だが、果たしてこのようなモデルは正しいのだろうか。実のところ、それは怪しい(図7, 図8、図9*13)。

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図9 社会保障負担に対する年齢別意識

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 図7を見て分かる通り、日本の高齢者は他国と比べて若い世代の利益を重視する傾向が強い。また、図8に示されているとおり、この傾向は年々強まっている。高齢者も一枚岩ではなく、高齢者重視と若い世代重視とが拮抗している現状がある。また、図9にある通り若年層も一枚岩とはいえない。むしろ若年層の方が高齢層よりも現役世代の負担増加をやむを得ないとする傾向すら見て取れる。このように、シルバーデモクラシー論の前提にある合理的有権者モデルは、世論調査レベルではむしろ否定されているのである。
 それでは、なぜこのような傾向が生じるのだろうか。ひとつの仮説としては、現役世代と高齢者との社会的紐帯の存在が挙げられるだろう。世代間対立とはいうが、現役世代と高齢者は、子と親であったり、あるいは孫と祖父母であったりする。互いにそのような関係にある以上、自らの利益ばかりを追求するわけにはいかない。考えてみれば、これは当然のことではないだろうか。シルバーデモクラシー論の最大の過ちは、そのような社会的紐帯を無視し、世代間対立を煽って選挙制度改革というラディカルな解決方法にすがったことにある。
 以上述べてきたように、シルバーデモクラシーや世代間格差の実態は曖昧であり、そのファジーさから都合の良い使われ方をしてきた。例えば八代尚宏は、マクロ経済スライド実施に反対する集団訴訟シルバーデモクラシーだとして批判している。だが、司法はすべての人間に開かれてしかるべきだし、政府の施策に対する司法的抵抗は、本来政治的弱者の手段である。シルバーデモクラシーなる言葉がひとりあるきして、単なる「高齢者叩き」と化してしまっているきらいがあるのではないだろうか。
 そもそもとして、社会保障制度の根幹は長い間大きく変わっていない。高齢化によって高齢者有利の制度が出来上がっていったとする説には無理が伴う。だとすれば、従来の制度を変えることができない、その硬直性にこそ「シルバーデモクラシー」の本質があるのだろうか。確かに、デフレ時のマクロ経済スライド不適用など課題も多い。だがそれは、われわれ有権者増税を拒むのとなにか違うのだろうか。世代論に落とし込まなければ説明できないような事象なのだろうか。
 先述したとおり、増税を拒み負担を先送りする現在の政治状況には、民主主義の根本的問題を見出すことができるかもしれない。だからといって、独裁や、投票価値をいじったりすることがその解決策になるわけではない。確かに我々有権者増税が嫌いだ。だが、将来世代に負担を先送りすることを良しとしているわけではない。そのような矛盾を誰しもが抱えているのである。だからこそ、世代間対立を煽るのはあるべき方向性ではない。少子高齢化が進む中で、どのように社会保障を配分していくかは重要かつ難しい問題である。そしてそれを解決するのは、熟議と国民の理解でしかありえないだろう。

 

おわりに

 本稿ではシルバーデモクラシーや世代間格差について、従来の仮説にやや批判的な立場から論じてきた。とはいえ、こういった議論が出てくる背景は理解できなくもない。経済成長率が鈍化し高齢化率が高まる中で、現役世代がパイの縮小に不満を抱くのはある意味当然でもある。少子高齢化が加速する日本の将来はどうしても悲観的に見えてしまうし、実際に、ここでいくつか絶望的なデータを提示することも簡単だ。だからこそ、最後に希望を持てる推計にも光を当てておきたい(図10*14

図10 人口構成の変化と就業者数の推移

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 従来、社会保障の負担を巡っては、現役世代と高齢者との人口比が指標として用いられてきた。一般的に、みこし型、騎馬戦型、肩車型などと呼ばれるのが図10の上図にあたるその推移である。一方で下図は、少子化、共働き世帯化、高齢者の労働参画が進む中で、就業者と非就業者との人口比を維持できることを示している。つまり、扶養の負担が劇的には変化しないかもしれないということだ。安倍政権でも「一億総活躍社会」というフレーズのもと女性や高齢者の労働参画を推進しようとしているが、この推計を踏まえれば、将来に絶望する必要はそこまでないのかもしれない。

 

注・出所

*1 菅原琢18歳選挙権で政治は変わるか」http://www.nippon.com/ja/currents/d00189/
*2 最近の世論調査でも、その傾向は強くあらわれている。内閣支持率の下落を取り扱った読売新聞の記事によれば、「年代別では、特に高齢層で支持が大きく低下した。18~29歳と30歳代は支持が6割以上を保ったが、50歳代は44%(前回55%)、60歳代は36%(同54%)、70歳以上は45%(同60%)となった」。「無党派高齢層 支持離れ 終盤国会対応 響く」読売新聞, 2017年6月19日
*3 「加計・森友問題、それでも…崩れぬ「安倍支持」の理由」朝日新聞, 2017年5月29日, http://www.asahi.com/articles/ASK5V3PWRK5VULZU002.html
*4 「民進“シルバー政党”化 支持層の62%が60歳以上 年金法・IR法反対…志向とマッチ」産経新聞, 2016年12月19日, http://www.sankei.com/politics/news/161219/plt1612190048-n1.html
*5 民進党ホームページhttps://www.minshin.or.jp/policies
*6 総務省人口推計より筆者計算。総務省ホームページ参照http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2013np/
*7 横軸は生年。縦軸は生涯賃金に対する比率を示している。鈴木亘・増島稔・白石浩介・森重彰浩「社会保障を通じた世代別の受益と負担」http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis281/e_dis281.pdf
*8 以下、厚生労働省社会保障の正確な理解についての1つのケーススタディ社会保障制度の“世代間格差”に関する論点」http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053851.html
*9 図はいずれも「社会実情データ図録」http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1320.html
*10 内閣府平成27年度 第8回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果」http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h27/zentai/
*11 あまり話題にならないが、待機児童だけではなく待機老人も社会問題になっている。増田寛也(2015)『東京消滅』中公新書.によれば、東京における介護需要の急速な高まりは大きな問題である。
*12 世代別選挙区とは、世代ごとに選挙区を区切り選挙を行う制度である。また、ドメイン投票方式とは、非有権者の子を持つ親に子の分の投票権を持たせる制度である。そして、余命比例投票とは平均寿命と現在年齢との差分によって、その個人の投票価値を決める制度である。
*13 *1に同じ
*14 「「少子高齢化」への対策」YomiDr., 2012年4月25日, https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20120425-OYTEW51671/

 

ちょっと気になる社会保障 増補版

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